Artist statement
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私は旧い農家に生まれ、自然崇拝と祖霊信仰を中心とした神仏習合文化、多神教的文化の影響下の中に育ちました。
そうした背景を持つゆえに一神教的文化を背景とする西洋思想に違和感を感じていた私は、自信のルーツをより理解するため大学を卒業後に旧官幣大社の神社に本職巫女として奉職し、神楽舞や雅楽による祭儀や神前奉仕を行い後進の指導を行う巫女長を勤めました。
伝統的宗教の中での芸術とは、しばしば人が神を賛美し、神と人とがつながるための装置として登場します。
私にとっての芸術とは長らく、娯楽や嗜好、もしくは自分自身の個性を表現するためのものではなく、あくまでよりよく正しく人間が生きるための真実に到達するための装置でした。
西洋で興ったシュルレアリスムは、夢や狂気、潜在意識の中に深くアクセスすることで超現実としての真実に至る革命のために芸術を用います。
私がこれまで信仰やその実践を通じて得てきたもの…芸術や潜在意識へのアクセスをもって真実=自然崇拝や祖霊への畏敬を深めてよりよく生きようとしてきたこの経験は、図らずもこのシュルレアリスムの精神と相似するものであります。
私はこのシュルレアリスムの方法論にならいながらも、西洋的思想としての真実ではなく、東洋的多神教世界ならではの自然崇拝と祖霊信仰からのアクセスを試みています。
そのため、自然崇拝の象徴として私は鉱物というモチーフを常に用いています。
鉱物やその加工品である宝石は洋の東西を問わず原始社会から歴史を通じて今に至るまで、さまざまな意味付けがなされ、文化の中で磨かれ賛美されてきました。
西洋的社会においては古代ギリシャから連なる思想として、「神の御業」「奇跡の証」として扱われてきた歴史があり、そこから近世においてはヴンダーカンマーから発する博物の流れとしては、珍奇なものを収集することによる権威の象徴として扱われてきました。
それとは異なるとらえ方として、私のルーツである神道の世界では日本古来の巨石信仰から端を発する「磐座」や依代としての勾玉や水晶など、自然の存在そのもの(鉱物や山岳そのもの)を神聖視し、崇拝するという思想があります。
私はこの自然崇拝の対象としての鉱物をそのままの姿でジオラマの中に取り込み、傍らに模型やフィギュアをあえてスケールを無視して配置しアッサンブラージュすることによるずれやゆらぎを演出し、無意識の夢の光景、超実の世界を表現します。
夢は誰しもが見るものですが、極めて個人的な体験であり、それを実際的に他人と共有することはできません。
それゆえに、夢を現実に引き出す装置としての私の作品は、古代における潜在意識にアクセスすること=トランスから神への賛美を行うことで神=真実に到達する「かんなぎ」のスタンスを持っています。
インターネットやSNS、物流の発展により世界が恐ろしい速さでつながっていく一方、新型コロナウィルスや紛争により人と人との関係性や実際的なつながりが分断された人間社会において、潜在意識=夢の光景の共有から超現実を得て人間本来の姿や真実を探るシュルレアリスムの、けれども西洋的視点ではなく東洋的視点からの方法論、それが私の作品群です。
2022年5月15日
島津さゆり